静かな森を抜ける街道に、小さな道標がひとつ。
その前に、3人の少年が向かいあって立っていた。
場所が場所だけに、一見するとこれから進む道をどちらにしようか相談でもしているような風景である。
しかしそれにしては、3人とも押し黙ったまま、むしろ睨みあっていると言ってもいい程の、ただならぬ空気が漂っていた。
常人には耐え難い程の緊張が、小鳥のさえずりさえうるさく感じさせる程張り詰めていた。
デュランは。
その誇り高い燃える目の圧倒的な力で相手をねじ伏せようとでもするかのように、力をこめて二人を睨み付けると、一度だけ指の骨をポキポキッと鳴らして、グッと握り拳をつくった。
(負けねえ。絶対。)
ケヴィンは。
月の光をたたえて怪しく光る目をスッと細め、その力を確かめるように、右の拳を開いたり閉じたりしながら、二人の様子をかわるがわる用心深く伺っている。
(オイラ、勝つ!)
ホークアイは。
腕組みをしたまま、口元にはうっすらと余裕の笑みを浮かべていたが、その獲物を狙う鷹の目は、二人の表情からどんな気配も取り逃すまいと、ギラリと輝いていた。
(さあ、どうでる?二人とも…)
そのとき。
フッっと、3人の間の空気が動いた。
誰からともなく、時の声があがる。
『さいしょはグッッ!!ジャンケンポンッッッ!!!』
「くっそおおおおっっっっ!!またオレの負けかよっっ!!」
デュランは突き出した右の拳を左手で握り締めて、その場にがくんとひざまづいてしまった。
そんなデュランを上から覗き込むと、ケヴィンは両手のひらをパーにしてヒラヒラとふってみせた。
「だってデュラン、さっきからグーばっか…」
「わあバカケヴィン、言うんじゃねえって!」
ホークアイが、パーを出した手でそのままケヴィンの口を押さえた。
しかし時すでに遅く、ショックで呆然としたデュランが力弱く二人を見上げていた。
「オ、オレ、グーばっか出してた…?気付いてたのか、おまえら。」
ホークアイは、知られちゃ仕方ないとでもいうように肩をすくめて答えた。
「そりゃーな。何回連続だ?おまえ負けたの。」
「…したら、相当前から…」
「そうだね。5、6回は負けてるよね。」
ケヴィンは半分気の毒そうな顔をしてみせたが、それとこれとは話が別だ、と言わんばかりに、容赦なくそばにあった荷物をズッとデュランの方へ押しやった。
「…またか。」
「そうそ。負けたんだから、文句なしだぜ。」
ホークアイも自分の荷物をドサリとデュランの前に落した。
「次の別れ道までだよ、がんばって。」
ケヴィンの屈託のない応援に、苦虫をつぶしたような顔をみせながら、デュランは3人分の荷物をどっこいせと担ぎあげた。
「次って、どれくらい先だ?」
「さあなあ。地図見ると、かなり先の方みてえだなあ。」
ホークアイは何の感情も見せないそぶりで、地図をチラリと見やった。
「落すなよ。ヨロシク。」
その地図をポンとデュランの頭にのせると、ホークアイは口笛を吹きながらスタスタと身軽に歩き出した。
「グッ…てめ…」
ふいに力を入れてホークアイの後姿を睨み付けたので、デュランの頭の上の地図は無情にも地面にパサリと落ちてしまった。
「あークソ、もう…」
空いた方の手でゆっくり拾い上げようとするデュランの脇に、良い匂いをともなって、軽やかに3人の影が現われた。
「お、ちょうどいいや。地図拾ってくれよ、アンジェラ。」
アンジェラはニヤリとほくそ笑むと、つぶれそうなデュランの肩に乗っている荷物の上に、自分のポシェットをポンと置いた。
「てってめ、なにしやがる!」
「ばぁか。」
アンジェラはケタケタと笑い転げながら、一緒に笑っているシャルロットと手をつないで先に行ってしまった。
「リ、リース…。」
最後の砦とばかりにデュランはリースを振り返ると、彼女は地面に落ちた地図を拾い上げている所だった。
「あ、わりい、それ持ってて…」
「ハイ。」
デュランが言い終らないうちに、リースは、地図を荷物と荷物の間に押し込んだ。
「これでもう落ちませんから。がんばってくださいね。」
無邪気に笑って、アンジェラ達の元へ小走りに駆けて行くリースを呆然と見つめると、デュランはふーーっと大きくため息をついた。
そしてキッと前を睨みつけ、もう一度しっかりと荷物を担ぎ直した。
「負けねえぞ!次は絶対!!」
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