カーテンから差し込む、うららかな日差し。
どこかで聞こえる鳥のさえずり。
カーテンの隙間からこぼれおちる朝の日差しが、サイドテーブルに細かい波紋を作ってゆきます。
その日差しが、小さな少女の顔の上を照らしました。
その少女の変わっているところは2つ。
まず、体の大きさが普通の人間の10分の1ほどしかないこと。
それから、背中にかわいい羽をはやしていること。
そう、その少女はフェアリー。マナの聖域からやってきた、フェアリーなのです。
「う、う〜ん…」
どうやらフェアリーはお目覚めのようです。
そっと、ベッドにしていた月見草の鉢植えから、サイドテーブルに足を伸ばし、降り立ちました。
そして、カーテンを開くと、背伸びとあくびを一つして言いました。
「今日はとってもいい天気。マナの祝日にぴったりって感じね。さぁってと、お寝坊なあの6人を、叩き起こさなくっちゃ♪」
フェアリーには、旅の仲間がいました。
それぞれの国から集ってきた、6人の仲間。
マナの減少を防ぐために行っている旅だけれど、フェアリーはこの6人と共に旅をすることが大好きでした。
そんなフェアリーの朝にすることは、6人を起こすことだったのです。
最初にフェアリーは、女の子達を起こす事にしました。
勝気で明るい姐御肌のアンジェラ、
かわいくていたずら好きのシャルロット、
面倒見がよくて少し天然ボケのリース。
女の子軍団は、2つのベッドをくっつけて、3人で仲良く寝ていました。
「あっさよ〜♪起きて、ほらぁ!起きてよぉ!」
カーテンを全開にして、フェアリーはアンジェラの顔をぺちぺち叩きました。
「う、う〜ん、なにようっさいわねぇ…」
アンジェラが紫色の髪をくしゃくしゃにしてむっくり起き上がると、フェアリーの顔を見ました。
そしてフェアリーの体をがしっとつかむと、頬をぐにぐにつねります。
「はわわっ、何するのよ〜放してぇ、やめてぇアンジェラ〜」
「あたしは眠いの!昨日帰ってきたのが遅かったんだから、もうちょい寝かせてよ!今度起こしたら、ファイアーボールかますからね!おやすみっ」
アンジェラは頭から枕をかぶって、長期戦の構えです。
フェアリーは呆れて、アンジェラは寝起きが悪いので、次のシャルロットを起こそうと思いました。
「起きて〜♪朝よっ朝よっ。シャルロット、起きてよ〜」
フェアリーはシャルロットの髪の毛をひっぱります。
「ふみゃ?なんでち?おのれ、ヘンテコオヤジめぇ、ヒースをかえせぇ〜」
シャルロットは寝ぼけて、フェアリーに向かってホーリーボールをいきなり放ちました。
「きゃぁ〜ちょっと寝ぼけてるでしょう?やめてよぉ〜」
フェアリーは必死に魔法をよけながらメガホンで叫びます。
「ヒースぅ…眠いでちぃ〜もうだめっ」
シャルロットはばたん!と後ろに倒れて寝てしまいました。
フェアリーは呆れて、シャルロットも寝ぼけるので、次のリースを起こそうと思いました。
「お・き・て☆リース。朝だよ、すごくいい天気だよ〜」
フェアリーは、リースの耳をくすぐります。
「んっ…あら、フェアリーさん、おはようございます。」
「おはよ☆リース」
フェアリーは、さすがにリースは寝起きがいいな、と感心しました。
「おはようのあいさつしましょう?ふふふ…」
急にリースは、フェアリ―をくすぐり始めました。
「きゃはは、リース、何するのよ…あははは、くすぐったい…やめてぇ」
「ふふふふふふふふふふふ♪ふわぁ、眠いですぅ…おやすみなさぁい」
リースは、きちんと毛布を直すと、ぐっすり寝てしまいました。
フェアリーは、リースも相当寝起きが悪かったのでがっかりしてしまいました。
「はぁ…男の子達、起こしにいこぅっと…」
男の子達の部屋は、これまた混乱の極みでした。
ぶっきらぼうだけど優しくてたくましいデュラン、
話すことがニガテだけど純粋なケヴィン、
軽いけど頼りになるホークアイ。
2つのベッドをくっつけて、縦に男3人寝ています。
デュランは半分ベッドから落ち、その上にケヴィンがのっかり、さらにその足を枕にしてホークアイが微妙なバランスで寝ています。
フェアリーは見た途端げんなりしましたが、元気をふりしぼり、カーテンを開けて、お日様の光を入れました。
そしてまず、デュランから。
「ねぇー朝よ!起きてってば〜デュラン〜」
フェアリーはデュランのお腹の上で跳ねます。
「んあ?なんだよ、ったく。たまの日曜くらいゆっくり寝かせろよぉ…」
おや、デュランすっかり父親モードです。
「遊園地につれてってぇ…じゃなくって!起きろ〜!」
「ああ?んだようっせぇなぁ。こうしてやるっ!どぉだまいったか!」
デュランはフェアリーを片手で捕まえてぶんぶん振り回しました。
「きゃぁ〜SOS!助けてぇ〜」
「俺は寝るっ!寝るったら寝る!」
フェアリーは呆れて、デュランはなかなか起きないので、次のケヴィンを起こすことにしました。
「朝ったら朝よ〜!起きてぇ、ケヴィン!」
フェアリーは、ケヴィンの鼻をはじきます。
「う、う〜?オイラ、今まんじゅうが食べたい。おいしそうなまんじゅう…」
ケヴィンはフェアリーの頭にカプッとかみつきました。
「!!きゃぁ〜私をたべたって美味しくないわよ!」
「まんじゅうっ」
フェアリーがケヴィンの顔をげしげし蹴ります。
「ん〜ん、オイラ、たこ焼きも食べたい…すー、すー」
ケヴィンはばたっとデュランの上に倒れて、寝てしまいました。
フェアリーはがっくりうなだれると、ケヴィンも寝起きが悪すぎるので、最後にホークアイを起こすことにしました。
「あ・さ・よ♪ホーク、起きろ〜!ねぇ〜ほらぁ、目開けろぉ」
フェアリーはホークアイの瞼を無理やり開けます。
「んあ?リースぅ、愛してるぜぇ〜」
いきなりホークはフェアリーに抱きつきました。
「ぎゃぁっ、ホーク、私はリースじゃないよう、寝ぼけるなぁ」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいって☆」
「ちっが〜う!起きろ〜」
フェアリーはホークの頭をボカスカ殴ります。
「リース〜つれないなぁ。俺スネちゃうっ」
ホークはまた毛布の中に潜り込んで、ぐーすか寝てしまいました。
「〜〜〜〜〜〜!!!もうどいつもこいつもっ寝起き悪すぎっ!」
ついにフェアリーは怒りました。
そして、頭の上にランプ印がつきました。いい考えが思いついたのです。
そして、道具袋をごそごそやっていたかと思うと、中からカボチャ型の手榴弾、パンプキンボムを取り出し、ほくそ笑みました。
そして、頭の安全ピンを抜くと、男部屋と女部屋に放り込んで、自分は遠くに避難して、指を耳の穴にしっかりつっこみました。
数秒後…
ドッカーン!!!
と、すさまじい爆裂音がしました。
フェアリーが行ってみると、ぼろぼろのパジャマに爆発している髪の毛の、6人がごそごそと起きてきました。
「おっはよ〜ございま〜す♪」
フェアリーはにっこり笑いました。
『お…おはよう…』
黒焦げの6人はつぶやきました。
さて、やっと6人を起こし、一安心…というわけにはいきません。
フェアリーにはまだやっかいな仕事が残っているのです。
それは、6人が洗面したり着替えたり髪をとかしたり朝の鍛錬をしたり武器の手入れをしたり朝ご飯を食べている内に、精霊さん達を起こさなくてはならないことです。
「おはよう、精霊さん達!今日はいい天気だよ☆」
フェアリーはにっこり笑顔であいさつしました。
「おっ、かわいこちゃんのお出ましじゃっ」
土の精霊、ノームがぴんぴん跳ねながらあいさつします。
「おはようさん。ほんまにええ天気やわぁ。」
水の精霊、ウンディーネが髪の毛をとかしながら言います。
「うおおおおおおっ!燃えるぜっ!おはよう!」
火の精霊、サラマンダ―が、自慢の炎を燃えたぎらせながら叫びます。
「…おはようございます。あの、よく眠れましたか?」
木の精霊、ドリア―ドが目をこすりながら言います。
「ちいっす!おはよっす!」
光の精霊、ウィル・オ・ウィスプが元気にあいさつします。
「おはようダス―。今日も一日がんばるダス―。」
風の精霊、ジンが、ふわふわ浮かびながら言います。
「おはようございます!今日は気持ちのいい朝ですね♪」
月の精霊、ルナがにっこり微笑みます。
その中で、一人だけ返事をしない精霊がいました。
「あれぇ?闇の精霊シェイドさんは?」
フェアリーが目をぱちくりして聞くと、ウンディーネが手をふって答えました。
「ああ、あいつな。あいつ闇の精霊やさかい、朝は弱いねん。だから、まだ寝とんのや。だいじょぶや、もう少ししたら、起きてくるやろ。さぁ、朝ご飯食べにいこっ!」
精霊は、人間と同じ食べ物はあまり食べません。
そのかわり、自分の司っている属性のものをエネルギー源とします。
たとえば、ウンディーネだったら、冷たい水。
サラマンダ―だったら、暖炉の炎。
ルナだったら、月の光、といった具合です。
精霊達が朝ご飯を食べに行っている間、フェアリーはひと休みすることにしました。
月見草の鉢植えの上で、花にもたれて瞳を閉じます。
瞼の裏に、太陽の光がほんのり透けて見え、ぽかぽかとした日差しが、とってもいい気持ち。
フェアリーは、うとうととまどろみ始めました…
フェアリーさん!起きてくださいっす、フェアリーさん!」
誰かがフェアリーの体を揺さぶっています。
「う〜ん…何よぅ人がせっかく気持ち良く寝てるのにぃ…やだっ!起きない!あたしは寝るの〜〜〜〜〜!!」
「そんな〜。起きてくださいっすよぅ。オレがウンディーネの姉貴に怒られちまいますよ〜」
おやおや、フェアリーは他の誰よりも寝起きが悪いようです。
起こしにきたウィル・オ・ウィスプが困っています。
「ノームさんが、朝ご飯食べにいったまま戻らないんっすよ。
みんなで探してるんすけど…フェアリーさん、知らないっすか?」
「ノームさんが?もぅぅ困ったわねぇ」
フェアリーはしかたなく起きると、鉢植えから飛び立ちました。
「あたし、中庭見てくるわ。ウィスプさんは、反対側探してみて」
「了解っす!」
「もうう、ノームさんったらどこへ行っちゃったのかしら…みんな寝起き悪いんだからぁ!すぐ迷子になっちゃう…」
そういう自分が一番寝起きが悪いことをフェアリーは知らないのでした☆
しばらく宿屋の中庭を見て回ると、フェアリーは花壇に降り立ちました。
「ふぅぅ、いっぱい飛んで疲れちゃったぁ。んっ?何かしらこれ…」
フェアリーが発見したのは、花の間に埋まっている奇妙な丸いポンポンのような物でした。
「???」
フェアリーは、そのポンポンにそっと触れてみました。
ポンポンはびくっと揺れました。
フェアリーは、びっくりしましたが、今度はそのポンポンを引っ張ってみました。
ポンポンの下からぼこっと出てきたのは…なんと、ノームでした。
ポンポンは、ノームの帽子の先のものだったのです。
「きゃっ、ノームさん!探してたのよ!何でこんなとこに埋まってたの?」
「わひゃひゃ、美味しい土を食べてたらのぅ、ついつい深く掘りすぎて、埋まってしまったんじゃよ。出られなくてあせったわい、ありがとな。」
「はぁ〜」
フェアリーは頭を抱えました。
「とりあえず、みんなのところへ帰りましょう…」
「はぁ〜ノームさんも見つかって、めでたしめでたしだわ。でも疲れちゃったぁ。朝だけなのに、こんなに疲れるなんてなぁ〜。みんなが買い物から戻ってきたら、デュランの頭の中でゆっくり休もうっと」
フェアリーはまた月見草の鉢植えの上で、丸くなりました。
そしてうとうとと眠りの世界へ落ちて行きました。
「フェアリーしゃん♪起きてくださいでちっ☆」
かわいい声と共に、フェアリーの体がひょいっと持ち上げられました。
「きゃぁっ!何?」
羽をばたつかせて、目を覚ますフェアリー。
そこには、水色の瞳をくりくり動かして笑っているシャルロットのアップが目の前にありました。
「わあぁ、びっくりしたぁ。怪獣かと思ったわ」
「なんか言ったでちか?」
「ううん、すっごくかわいい天使かと思ったわ☆」
シャルロットがフレイルを取り出したのを見て、フェアリーは慌てて訂正しました。
「聞いてよフェアリー!さっき買い物してきたらさぁ、いいものあったから、買ってきたのよ。」
「とってもかわいいんですよ。フェアリーさんにプレゼントです。」
アンジェラとリースも、にっこり笑って言う。
「じゃーん!」
女の子達が見せたものは…
綺麗にラッピングされた箱でした。
「わぁぁ、なんだろう」
フェアリーは箱を開けてみると…
「!!わぁ…」
フェアリーは息を呑みました。
箱の中には、かわいい人形用の服が入っていました。
水色のワンピースとリボン。
「かわいいでち〜フェアリーしゃん!」
「フェアリーさん、とっても良く似合ってますよ!」
「サイズもピッタリ!最高よ♪」
本当に、よく似合っていました。
淡い水色のワンピースと、おそろいのリボンが、ふんわり風にはらんで、フェアリーを素敵に見せていました。
「お〜い、買い物袋ぐらい持てよ…おっ、フェアリー、かわいいじゃねーか!」
いっぱいの荷物を抱えた男の子達も部屋に入ってきました。
「しかし、おもちゃ屋なんかに入って何してんのかと思ったら、服買ってたのか。すごいアイデアだよな。フェアリー、よく似合ってるぜ☆」
ホークアイが、感心したように言います。
「やっぱりぃ?あたちのセンスは最高でちね!」
シャルロットが、胸をはって、しししと笑います。
「なぁ〜にが『あたちのセンス』よ。このワンピースは、あたしとリースで選んだのよ。あんた最初、ブリブリのウェディングドレス選んでたじゃない!」
「ううっ、それは言わないお約束でち!」
「みんな…ありがとう。あたし、とってもうれしい…」
フェアリーの瞳から涙がこぼれ落ちました。
「なぁ〜に泣いてんだよっ。嬉しい時は笑うんだよ、普通」
デュランがフェアリーの頭をぐりぐり撫でます。
「そうそう、フェアリー、オイラ達の大切な仲間!」
ケヴィンが、持ち前の天真爛漫な笑顔を見せました。
「違うの。あのね、あたし、まだ少ししかみんなと旅してないのに、『仲間』って言ってくれて…あたしのためにプレゼントくれたりとかしてくれて…それが、すっごく嬉しいの。あの、あたし、みんなに今すっごく言いたい事あるの。聞いてくれる?」
6人の仲間は、フェアリーの顔を微笑みながら注目しました。
そしてフェアリーは深呼吸。
「あのね、あたしは…みんなのこと、大好きだよ!」
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