その理由を知る者はすでになく それを探求することに、人々は意味を求めない それでも、「その日」は変らずここに存在する その日を待つ誰かのために その日を思う誰かのために その日に願う誰かのために その日に祈る誰かのために 時は、ここに生きる全ての者に訪れる 荒れた大地に立つ者へ 乾いた風に向かう者へ この空の下に生きる、全ての者のもとへ 荒野のメリークリスマス 〜ロディ&ジェーン〜 どんなものでも、祭りの後は寂しいもの。 今二人がいる場所にも、冷たい夜風と共にそんな空気が流れている。 一年に一度、コートセイムで一番広い空き地は、一年で一番賑やかなパーティー会場になる。近くの森からもみの木を切り出してきて大きなクリスマスツリーにし、力仕事ができない少女や子供達は飾りつけや料理に忙しい。パーティーで上演する劇で役をわり振られている子は、忙しい準備の合間をぬって衣装や台詞のチェックをし、台本を片手に走り回る。やがて日が暮れて、空き地に篝火が灯るのを合図にコートセイムのクリスマスは始まる。 だがつい数時間前まで笑いに溢れていたその場所も、今はしんと静まり返っている。 「悪かったわね、せっかく来てくれたのに」 明日にはまきにされてしまう運命の本日の主役の前に座って、ジェーンは隣の少年に話しかける。 魔族の脅威が去ってからも、相変わらずどこ吹く風の渡り鳥をしているザック、ロディ、セシリアがコートセイムを訪れたのはクリスマスの一週間前だった。 そしてそのまま一週間この村で子供達と共にクリスマスの準備に追われていた。ジェーンとジェーンの父ニコラの勧めもあり、今は別に急ぐ旅をしているわけでもなかったから、3人はそのまま孤児院のクリスマスパーティーに飛び入りで参加させてもらうことにした。 何よりもセシリアが、「子供達とのクリスマスパーティー」と聞いて素通りできるはずがない。 「ゆっくりするどころか、思いっきりこき使うことになっちゃって」 すまなそうに言うジェーンに、ロディはそんなことないと首を振る。 「ううん、すごく楽しかった…それに面白いものも見られたしね」 思い出し笑いをこぼすロディにつられて、ジェーンもくすっと笑みを浮かべる。何を思い出して吹き出したかは想像するまでもない。確かにあれはちょっとお目にかかれない衝撃の出来事だったとジェーンも思う。 「ザックのサンタクロース姿なんて、こんなことでもないと見られないもの」 「サンタ役のパパが急にケガしたっていうのもあるけど…あの人がよくやってくれたわよね…」 ジェーンはいまだ不思議そうに首をかしげる。中身は三枚目でも表面は自称二枚目である彼に、赤い服に赤帽子おまけに白い付け髭はさぞかし不本意であったに違いない。 「例によってセシリアに言い負かされたんだ、それにオレも少し援護射撃に参加したし」 「…俺様に見えて意外にイイヒトよね、押しに弱いっていうのもあるかもしれないけど」 人は見かけによらないものねぇ…と難しそうな顔をして首をひねるジェーン。本人に言ったら「からかわないで」と怒られるかもしれないが、その仕草はいつもの大胆不敵なカラミティ・ジェーンのものとは違って、とてもあどけないものに見えた。 「あとお姫様の方にも感謝しなくちゃね、ホワイトクリスマスをプレゼントなんて非常識なことしてくれて…おかげでみんな大喜びだったから」 それを思い出すと、ロディはあはは、と曖昧に苦笑いして頬をかいた。セシリアの突然の行動にはロディもさすがに驚いた。まさか雪のガーディアンをマテリアル化して即席ホワイトクリスマスにするなんてこと、セシリアでなければ考え付かないし、実行しようだなんて思わないだろう。子供達もジェーンも、まるで魔法みたいだと喜んでくれたのはいいが、「下手すりゃ凍死だぞ、バカ」と、その後でザックに散々文句を言われたことをジェーンは知らない。 「もちろん、あんたにもとっても感謝してるんだからね」 そこまで言って、ジェーンが突然ロディに詰め寄る。他の仲間2人が話に出ておいて、彼だけが触れられていないのを気にしてのフォローのつもりだろう。本人はそんなことちっとも気にしていないが、それでもこうして大真面目な顔を向けられて自分のことを気にしてくれると思うと、どこかくすぐったくて照れくさい気分になる。 「みんなすごく楽しそうで、すごく嬉しそうな顔してた、それってあんたのおかげだわ」 そう話すジェーンこそ「すごく嬉しそう」という表現がぴったりの笑顔ではしゃいでいる。 「それはクリスマスだからだよ、僕は大したことしてないから…」 そう言って苦笑するロディに、ジェーンはとたんにふくれっ面になる。本当にくるくるとよく変る顔を近づけてロディの鼻先をビシッと指差す。 「そんなことないわよ」 「でも…」 「そんなことないったらないのっ! あれだけみんなに大人気だったのに何で謙遜する必要があるのかしら。みんなあんたが大好きだから一緒にいて楽しかったし嬉しかった、あたしだって…」 そこまで言ってジェーンは「あ…」と呟き、思いっきりしまった、という顔をしてみるみる真っ赤になる。 ロディもロディで先ほどに増して真っ赤になったジェーンにつられるように頬を赤らめる。 「あたしだって…楽しかったのよ、今までのクリスマスで一番だっていえるくらい」 照れ隠しにふいっと顔を背けて言った。あんたがいたからとまでは続けなかったが…。 「…ありがとう」 とても彼らしい、優しげな笑みを浮かべてロディは答える。生憎ジェーンは向こうを向いたままだったのでその笑顔を見ることはかなわなかったが。 「本当よ、お世辞なんかじゃなく。あんたは優しいから、みんな近くにいて幸せな気持ちになれるの。そりゃ今日は一年で一度のクリスマスだし、浮かれるのは当然だけど、それだけじゃこんな気持ちにはなれないよ。サンタクロースしてくれたことも、雪を降らせてもらったのも楽しかったけど、あたしは一番、こんなに優しい気持ちにしてもらったことに…とっても感謝してる」 照れくさそうに髪の毛の先をいじりながらうつむく。自分の言ったことが間違っているなんてこれっぽっちも思わないけど、本人を前にはっきりと言い切るのはやはりどこか気恥ずかしい。でもこれ以外にいいようがないし、それでも…。 「ありがとう」 ロディは一人困った顔をしたりうろたえたり、はたまたにっと笑うジェーンにくすくすと笑い、もう一度、何かを確かめるようにその言葉を繰り返す。 「そう言ってくれると…少し自信持っていいのかなって思えるよ」 何に、と言いたげなジェーンの眼差しに答えるように、ロディは話し続ける。 「誰かと何かするってことに。誰かと、一緒にいることに。もう少し、欲張りになってもいいのかな…」 「そんなの、いちいち確認することじゃないでしょ」 何よ今さら、とジェーンは不服そうに顔をしかめる。こっちは決して短くない付き合いだと思っているのに、今さらそんなことを言うなんて水くさいと思ってしまう。もっともそういう部分がロディのいいところでもあるのだが…。 「ごめん、でもオレまだそういうのに馴れてないから…こんな風に思えるようになって、そんなに時間も経ってないしさ」 そう思えるようになったのは、前の旅をするようになってから。旅の中でいろんな人と出会って、自分は一人ではないと、一人でいなくてもいいと思えるようになったから。そこからそれほどに時が経っていないから、ロディ自身はまだ戸惑うことも多い。前を向いて歩く術は知ったが、全てはまだこれからなのだから。 「あんたって、いつもそうだけど、時々度し難い鈍さを発揮するわねぇ…」 ロディの話を聞いて、ジェーンはかなりの脱力を禁じえない。多少人とは違うとしても、そんなことどうでもいいと言い切ってしまえるほどに優しい少年は、謙虚なのか純朴なのか…それとも本当に鈍いだけなのか、すでに周りの人達がとおの昔に気づいていることに、本気で気づいていない。 「ねぇロディ、あんたのいう誰かと一緒にってことに、慣れも時間も関係ないわよ。どれだけ長く顔を合わせてもキライな奴はやっぱりキライだし、たとえ出会って一時間でも大好きになれる人もいる。そんな中であんたはとっても人に好かれる人よ。あたしが保証してあげる。みんなあんたの優しさに、笑顔になったり、嬉しくなったりする。今夜の子供達がいい例じゃない。だから、そんな後ろ向きに前向きなこと言わないでさ…」 ジェーンはそこで言葉を切ると、いたずらを企む子供のような表情をしてロディに詰め寄る。そして何をするかと思ったら絆創膏の貼られた頬を軽くむにっとつまんだ。突然のジェーンの行動に、ロディは驚いたがそう思ったときには時すでに遅しというやつだった。 「何かしたい、とか、一緒にいたい、とか堂々と言いなよ。あんたが思っている以上に、みんなきっと喜ぶから」 そうかな…。言いかけたが頬をつままれたままだったので言葉にならなかった。それにいやに自信たっぷりにそう言われると、いくらロディでも信じることができる。 しばらく考えた後に、ロディはこくんと頷いた。 それを見て、ジェーンも嬉しそうに笑って手を離した。 「それって、ジェーンに言ってもそうしてくれる?」 「ま…まぁ、そりゃ…言い出したのはあたしだし、あんたのこと…その、嫌いじゃないし…よっぽど無理なことじゃなければ考えてあげるわよ」 きまり悪そうにふいと視線を逸らすジェーン。もちろんそれは照れ隠しに他ならない。 「じゃあさ、オレ、来年もここでクリスマスを迎えたいっていうのは…だめ?」 「ええっ!?」 「…やっぱり」 驚いたジェーンの声を否と早合点したロディは、叱られた子犬さながらに頭を垂れる。ぺたんとくっついた耳まで見えるようだ。 「ううん、違う違う。何ていうのかな、意外なコトだったから。準備とか、けっこう大変だったからさ」 「そうかな、でもオレすごく楽しかったから。みんなで準備するのも、それからみんなで騒いだり笑ったりするのも」 だからまた、一緒に何かやりたいなって、そう思った。 表面上はさっきと変わりない表情だが、内心でジェーンがどれだけ舞い上がっているかロディは知らない。 「ずるいなぁ」 どうしてそういう嬉しいことを、何でもないかのように言ってしまえるんだろう。多分彼が嬉しいと思ったことと、自分が嬉しいと思ったことは少しずれているのだろうけど、それでも悔しいけど、ジェーンにとってはとびきりの「お願い」なのだから。 「え、何が?」 「いいの、こっちの話。それより、そしたら来年はロディがサンタクロースをやるのよ」 とっておきのカラミティ・ジェーンスマイルでウィンクをして、ジェーンは元気よく宣言した。 「それは…さすがにちょっと無理があるんじゃないかな」 「だーいじょうぶよ、今年のサンタよりは適性あると思うから」 思わぬ話の展開にロディは思わず苦笑する。そんな彼を前に、ジェーンはカラッとした笑顔を向けて、彼女らしくキッパリと言い切った。 「それに、あたしがちゃーんと衣装作ってあげるから、ね」 それは意地っ張りで素直になれない、でも優しさは人一倍のお転婆娘からの、精一杯の気持ちの表現だと、果たしてロディは気づいているのか、いないのか…。 どんなものでも、祭りの後は寂しいもの。 それでも、今年は少しだけ違う。 早く来年の今日が来ますように。 そんな胸騒ぎと共に更けていく夜だった。 |
FIN.
もんぢゃさんの所のクリスマスSS配布企画の中の1作です。幾つかお品書きがありまして、その中から好きなモノを選ぶ事が出来るのですが、そのラインナップがスゴイ!文月垂涎のマイナーCP、絵は元よりSS何ぞまず見掛ける事のないCPが揃っているじゃありませんかッ!!流石はもんぢゃさんキャー!マイナーCP万歳キャー!!(うるさいです)……これは申し込もうと決定するまでに只の一秒もかかりませんでしたね、ええ。そして事もあろうに3本も申し込んだ挙句に一挙掲載を打診してしまった訳ですね。もんぢゃさんスミマセンです。そんなSS群の一つがこのロディ×ジェーンです。 |