「どうせ雑魚だ! さっさと片付けるぞ!」
デュランが地面を蹴ってラビーズの真っ直中に飛び込んだ。
「レッド・旋風剣!!」
ライトニングソードを両手で握りしめ、自分の身体を中心にデュランが竜巻の様に回転して敵を切り裂く。
デュランの起こす竜巻の軌跡の通りにラビーズの姿が消えていった。
「よし、次オイラの番!」
続いてケヴィンがラビーズに向かっていく。
「イエロー・夢想阿修羅拳!」
目にも止まらぬ拳と蹴りの応酬に、それを浴びせられたラビーズ達はあっという間に消滅する。
「二人ばかりにいい格好させられないぜ!」
ホークアイがラビーズの群の上高くに跳び上がる。
「ブラック・飛燕投!」
ホークアイの両手が振り下ろされると共に、そこから無数のマイクロナイフが放たれ、次々とラビーズに命中した。
「空中のは、あたしがやるわよ!」
アンジェラがまだ空中に残っているラビーズを見据える。
「ブルー・スパイラルロッド!」
アンジェラの手から放たれたエナジーロッドがブーメランの様に飛んでいき、空中のラビーズを弾き飛ばす。
「ざこのくせにしつこいでちね! シャルロットのひっさつわざをくらうでち!」
集団から外れて向かってくる何体かのラビーズの前に、シャルロットが立ちはだかる。
「ピンク・どかーんでち!」
地面に勢い良く叩きつけたサイバーフレイルの衝撃波が、周辺のラビーズを吹き飛ばした。
ここまでの攻撃で大方のラビーズは片づいていたが、それでも尚ちらほらと残っているラビーズが見える。
「残りは任せて下さい!」
リースが中心に立ち、エレクトロニックスピアを頭上に掲げ、高速で回転させる。
「グリーン・真空波動槍!」
そこから無数の真空波が四方へと飛び、ラビーズを残らず消し去った。
「よし! 後はお前達だ!」
デュランが美獣を指さし叫んだ。
しかし美獣は不敵な微笑を浮かべ、マナマナ6に一瞥を与える。
「それはどうかしら?」
「何だと!?」
「あれをご覧なさい」
マナマナ6ははっとして美獣が示す上空を見上げた。
「あれは!?」
「礼を言うよ、イザベラ君」
上空では紅蓮の魔導師が召喚呪を完成させたところだった。
「召喚、暗黒獣!」
空間が黒く歪み、そこから人の大きさ程もある鳥の姿をした暗黒獣が出現した。
「コカトリス! マナマナ6を石に変えて砕いてしまえ!」
暗黒獣コカトリスは猛スピードで地上へと急降下してきた。
『皆気をつけて! コカトリスの嘴に触れると石化するわ!』
六人が着けている通信機からフェアリーの声が聞こえた。
「皆! 避けろッ!」
デュランの声に、全員が反射的にその場から飛び退く。
「きゃあっ!」
一歩遅れたアンジェラが、コカトリスの翼の風圧で弾き飛ばされた。
「アンジェラ!!」
デュランが慌ててそちらへ跳び、アンジェラの身体を片手で受けとめる。
「大丈夫か!?」
「…ええ、何とかね。って、ちょっと! 変なとこ触らないでよ!」
「さ、触ってねぇよッ!! たまには素直に礼ぐらい言ったらどうだ!!」
「お前ら痴話喧嘩は後にしろ!」
「ホークアイ! あんたも変な事言うんじゃないわよッ!」
「ちわげんかって何だ?」
「ふふふ、おこちゃまでちねえ、ケヴィンしゃん。シャルロットがくわしくせつめいしてあげるでち」
「皆さーん! そんな事言ってる場合じゃありませーん!」
勝手にもめているマナマナ6をよそに、紅蓮の魔導師と美獣はいつの間にか遥か上空に辿り着いていた。
「ふ、我々は高見の見物とさせてもらおう。任せたぞ、コカトリス」
そう言うと、紅蓮の魔導師は腕を一閃させる。
「あッ!! 待ちやがれ!」
デュランの叫びも虚しく、紅蓮の魔導師の姿は消える。
「少しは楽しませて頂戴ね」
その台詞と投げキッスを残し、美獣の姿も消えた。
「畜生ッ!」
「とりしゃんがまたこっちにきたでち!」
シャルロットが叫ぶ。
コカトリスは再び六人に襲いかかって来た。
「くッ!!」
間一髪、六人はそれを避け、空中に退避する。
続けてコカトリスは、自らの羽根を無数の手裏剣の様に放つ。
「! 皆さん、下がって!」
リースが前方に躍り出る。
「リースッ!!」
ホークアイが息を呑む。
「グリーン・旋風槍シールド!」
身体の前でエレクトロニックスピアを光速で回転させる事によって、それが巨大な盾となりコカトリスの羽根から六人を防御する。
「有り難う、リース!」
「…余り無茶な事するなよ」
素直に感謝の言葉を口にするケヴィンの横で、ホークアイが溜息をつきながら小さく呟いた。
「こうなったら合体技で一気に片を付けるぞ!」
「了解!」
「行くぞ! マナマナ・ジョイント6!」
デュランの声に合わせ、六人がそれぞれの武器を構える。
まず第一陣のケヴィンとシャルロットがそれぞれ拳とサイバーフレイルで打撃を加える。
続いて第二陣、リースがエレクトロニックスピアで起こした強風に乗せ、ホークアイが無数のマイクロナイフを放つ。
そして最後にデュランとアンジェラが、ライトニングソードとエナジーロッドから放出される光の波動を同時に叩き込む。
この一連の攻撃が一瞬の内に全て行われるマナマナ6の奥義、名付けて
「マナマナ6・グラン・クロア!!」
これを受けたコカトリスはひとたまりもなく、断末魔の叫び声と共に倒れ伏した。
『くそッ!! 覚えていろ、マナマナ6!!』
辺りに紅蓮の魔導師の悔しそうな声が響き、そして彼の気配は完全に消えた。
「畜生ッ、また逃がしたか…!」
こちらも悔しそうなデュランの横で、シャルロットがいち早く新たな気配に気付く。
「あッ! またあのへんてこオヤジでち!」
「何ッ!?」
「きいいいい! へんてこオヤジとは相変わらず御挨拶ですね!」
上空に浮かんでいたのは、妙に細い身体に道化師の衣装を着け、大きな鎌を手にしている異様な風体の男である。
「貴様は死を喰らう男!」
「ほほほ、コカトリスを倒していい気になっているようですが、喜ぶのはまだまだ早いですよ!」
死を喰らう男はそう言って鎌を振り上げる。
「暗黒獣進化!!」
その言葉と同時に鎌から雷撃が迸り、倒れていたコカトリスを直撃する。
そのままコカトリスの身体が一気に巨大化し、ビル程の大きさになるとむくりと起き上がった。
「しまった!」
「完全体コカトバード! その小生意気なガキんちょ共をつつき殺しておしまいなさい!」
そう言い残し、死を喰らう男の姿は空気に溶ける様にかき消えた。
「俺達もメカで応戦だ! フラミーを呼ぶぞ!」
「了解!」
「ウィンド・ドラム!」
デュランが右手を天に向かって突き上げると、その手に小さな太鼓(ドラム)が現れる。
ウィンド・ドラムが高らかに鳴り響くのに併せ、空気が激しく振動する。
その振動が収まると同時に、空の彼方から、白銀に輝く身体と翼を持った巨大なロボットが飛来した。
「フラミー!!」
デュランの呼び掛けに応じて、フラミーは六人目指して急降下する。
絶妙のタイミングで地を蹴って、六人はフラミーに乗り込んだ。
操縦桿の前にはデュランとホークアイ、レーダーの前にケヴィン、コンピューターの前にシャルロット、基地との通信機の前にアンジェラとリースが、それぞれ着席する。
フラミーは急上昇し、コカトバードと対峙した。
「フェアリー! あいつの攻撃パターンを教えて!」
アンジェラが基地のフェアリーに無線で尋ねる。
『コカトバードは嘴だけじゃなく飛ばしてくる羽根にも石化能力を持っているわ。羽根自体を石化させて石つぶての様に飛ばしたりもするから気をつけて!』
「フェアリーの言う通り、羽根飛んできた!」
レーダーを見ていたケヴィンが報告する。
無数の羽根は途中で石に変化しながらフラミーに向かって来る。
「! よけたらまちにいしがおちるでち!」
石つぶての軌跡をコンピューターで想定していたシャルロットが叫ぶ。
「行くぞホークアイ!」
「OK!」
デュランが操縦桿を操り、石つぶての飛んでくる真正面にフラミーを旋回させ、丁度真正面に来た瞬間を見計らい、ホークアイがレーザーのスイッチを入れる。
「セイントビーム発射!」
フラミーの口が大きく開き、そこから白い光線が発射された。
光線が石つぶてを包み込むと、石は蒸発し消えていった。
「お見事です!」
リースが賞賛する。
「次は本体だ!」
「よし、行くぞ! 皆掴まってろ!」
デュランは再びフラミーを急旋回させ、コカトバードに向かっていく。
コカトバードもそれを察し、フラミーに猛スピードで向かってきた。
そして、二体が空中ですれ違った瞬間。
「フラミー・エアブラスト!!」
閃光が空中を走り抜ける。
フラミーの翼から光速で放たれた空気の刃が、コカトバードを真っ二つに切り裂いていた。
コカトバードの切り裂かれた身体は、そのまま空中で爆発し、そして消えた。
「御苦労だったね、諸君」
基地に戻った六人を博士とヒースとフェアリーが出迎える。
「怪我は無いかい?」
「はい!」
ヒースの問いに六人は頷く。
「そうか、何よりだ。今日はゆっくり休んでくれたまえ」
「有り難うございます、博士」
「ヒースと一緒にお茶煎れ直したわ。カールも帰ってきたし、改めてお茶にしましょ」
フェアリーが言った。
「よーし。一服したらまた先刻の続きだぞ、ケヴィン!」
「はあ!?」
嬉しそうに言うデュランの横でホークアイが呆れる。
「ゆっくり休めって言われたばかりだろ…」
「本当の戦闘が今終わったばかりなんですけど…」
「げんきでちねぇ」
「ホント、救いようのないバトル馬鹿ね」
アンジェラの呟きが終わるか終わらないかの内に、ケヴィンが隣で跳び上がる。
「よーし! 腹ごしらえしたらやろう! 今日は負けない!」
「よく言った! じゃあ、まず食うぞ!」
デュランとケヴィンは楽しそうに司令室に向かって走って行ってしまった。
「…」
「…もう一人いたわね、バトル馬鹿が」
残されたメンバーは走り去っていく二人の背中を呆然と見送っていた。
「…また、失敗したか」
巨大な水晶で今回の戦いの様子を見ていた玉座の男は、その映像を消すと玉座から立ち上がった。
「も、申し訳有りません、竜帝様!」
玉座の前では、紅蓮の魔導師、美獣、死を喰らう男が膝を折っている。
「…まあ、良い。この位刃向かってくれた方が、屈服させる楽しみも増すというものだ」
そう呟くと、竜帝は再び玉座に腰を下ろした。
「それで、次はどう出る?」
「今度は私にお任せを」
美獣が顔を上げる。
「何ッ!?」
紅蓮の魔導師が美獣の方を振り返り睨み付けるが、当の美獣の方は一向にそれを気にする様子もない。
「この日のために呼び寄せておいたとっておきの暗黒獣がおります」
そう言って、美獣は妖艶な微笑をその顔に浮かべた。
「よかろう。次回は美獣、お前が指揮を執れ。吉報を待っておるぞ」
「御意」
三人が深々と頭を垂れると、竜帝の姿は闇に溶けた。
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