それはある日の出来事。
「リース、あのクラウンのペンダント見せてよ」
「・・・これですか?いいですけど・・・小さいからなくさないで下さいね」
「ありがとvでもシャルじゃあるまいし、そんな間抜けなことしないわよ」
本人目の前にしてよう言えたもんである。
案の定、傍らでほっぺたをぱんぱんに膨らませてすねている者が約一名。
リースは身に付けていたそのペンダントをはずし、アンジェラに手渡した。
「きれいでちねえ」
うっとりした表情でシャルロットが言う。
「そうよねえ、アタシ、前からこれつけてみたかったんだv」
アンジェラはさも我が物顔でペンダントを付けている。
そのとき、リースの顔が少し引きつったのをシャルロットは見逃さなかった。
「私出かけて来ますね。」
そそくさとリースは立ち去っていった。
「あ!シャルもいくでちー!!」
シャルロットもどたばたとあわただしく出て行く。
「ったく、静かって言葉を知らないのかしら」
この場にホークアイがいたらおめえにいわれたくねえよ、と間違いなく突っ込まれそうなことをいいながら、アンジェラはうきうきと部屋を出て行った。
男部屋を目指してすたすたと歩いているアンジェラ。
「・・・ちょっとチェーン長すぎるかしら」
と、ホックに手をかけ、長さの調節をしていたところ。
「あ」
つるりとペンダントを落とし。
パキン
「・・・・・」
自らの足で踏み壊してしまう。
そろそろと足を上げてみるとそこには見るも無残に砕け散ったペンダントの姿。
「・・・どうしよう・・・」
しばし考えて。
「リースだからきっと許してくれるわよね、うん」
とペンダントを拾って男部屋へ進んでいった。
2時間後。
女部屋には重苦しい空気が漂っていた。
ぐるりと円陣を囲んだような体制の男性陣+シャルロット。
その中心には所在無さげに視線を宙に漂わせているアンジェラとヴァナディースでありながらフェンリルナイト並みのドス黒いオーラを漂わせているリースの姿。
きっと許してくれる、などと安易な考えをもった自分がバカだった。
すでに30分前ほどからこの冷戦は始まっており、耐えかねたシャルロットが男性陣を部屋に呼び込んで、今に至る。
「あの・・・とりあえず、ゴメンナサイ・・・。」
アンジェラにしては珍しく素直に謝る。
「いえ、アンジェラさんに貸してしまった私が悪いんです、気にしないで下さい。」
絶対零度の微笑でさらりと告げるリース。
「なくすならまだしも、壊してしまうんですから」
カッチーン
という効果音が本当に聞こえて来そうだった。
「なによ!あんな安物ペンダントすぐに壊れるのあたりまえじゃない!!」
「おい・・」
さすがにデュランが止めにはいろうとした時、リースはくるりときびすを返し、ドアのほうへと向かった。
ドアノブに手をかけ、顔だけアンジェラのほうに向けて、
「あなたにとっては安物でも、私にとってはとても大切なものなんです」
そう言い放ち、部屋を後にした。
すると、いままでだんまりを決め込んでいたホークアイがするりと動き、リースの後を追っていく。
「今のは・・・言いすぎだ、アンジェラ」
アンジェラとすれ違いざまにそうささやいて。
後には、ただ黙ってうつむくアンジェラと彼女をただだまって見ているしかないデュランとどうしていいのかわからずにおろおろしているだけのお子様コンビが取り残されたのであった。
ホークアイは迷うことなく宿屋のベランダへ足を運んでいた。
リースは風を身体に感じながら星を眺めるのが好きだ。
そう、本人から聞いていたから。
間違いなく、そこにいるだろうとふんでいた。
案の定、ベランダにたたずむ一人の影は彼女のもので。
ホークアイはそっと彼女に近づくと後ろから優しく抱きしめた。
「・・・あんなこと、言うつもりじゃ、なかったんです」
ぽつぽつと彼女が言葉を並べ始める。
「でも、だんだん自分がわからなくなってきて・・・。アンジェラ、きっと傷つきましたよね。」
「んー?でもアンジェラも悪いしな。でもあいつは謝っただろ?リースも言い過ぎたとも思うけど。どっちもどっちだろな、喧嘩両成敗ってやつ?」
「・・・・。」
「ま、たまにゃいいクスリになったんじゃねえ?」
おどけたような、でも本当のことを彼は言ってくれる。いや、最後の一言は完全におどけているのだろうが。
「ま、オレとしてはすっごく嬉しかったけど?そんなに大切にしててくれたんだろ、あのペンダント。」
そして彼女の耳元で一言、ささやいた。
「ありがとう。」
しばらく、その体制でいたのを、ホークアイは急にリースの身体を優しく、反転させる。
「さて、今、君がやらなきゃならないこと、わかるよな?」
ホークアイが紺碧のリースの目を見ながら問い掛ける。
リースもまたホークアイの赤みがかった紫の目を見ながら言った。
「・・・私、アンジェラさんに謝ってきます」
「よし。」
『あなたにとっては安物でも、私にとってはとても大切なものなんです』
なんてことを言ってしまったんだろう、とアンジェラは自己嫌悪に陥っていた。
あのクラウンのペンダントはリースがホークアイにもらった、大切なペンダントだったのだから。
自分だって、今身に付けているこのピアスを馬鹿にされたら傷つく。
これはデュランにもらった大切なピアスなのだから。
「なあ、アンジェラ。」
ずっとアンジェラの真向かいにいたデュランがアンジェラに目線を合わせて話し始めた。
「確かに、リースも言い過ぎたところがある。謝ったのにあんな言い方されちゃ、俺だってムカツク。でも、あれは言いすぎだと、思う。」
「・・・わかってる、わかってるのよ。」
「もっかい、冷静に話し合ってこいよ。」
「うん、ありがと、デュラン。」
「それと、もうひとつ。」
「?」
「そのピアス、つけててくれてんだな。ありがとよ。」
そういった彼の顔は照れて真っ赤だったが、嬉しそうだった。
翌日。
いつもどおり、朝食を食べに食堂に集まった一行が見たものは、完全に蚊帳の外に出されたお子様コンビが迷子センターらしき場所でグースカ眠ってる姿だった。
あの一件以来、女の友情はさらに深まり、男性陣はさらに尻に敷かれることになるのである。
やはり、聖剣の勇者一行は女性陣が圧倒的に強いことには変わりないらしい。
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